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齋藤 薫
写真提供:藤澤靖子
 雑誌の編集者をしていた頃、美しい人に美しくなる秘訣を聞くと、ほどんどの場合こういう答えが返ってきた。「特別なことは何もしていません」。そんなはずはないと思いながらも、そこに生まれる神秘性にさらなる美しさを見たものだった。
 もちろん一方に、美しさの秘訣を惜しみなく語ってくれた人もいる、ヨーグルトでマスクをしている、日本酒風呂に入っている、粗塩でマッサージをしている、みたいに、舞台裏を何もかも。
 普通、女優さんの多くは、イメージ戦略やCM契約に影響するからと、使っている化粧品の話はもちろん、美容法すら話してくれないもの。だから何から何まで話してくれる人は、私たちにとってとてもありがたい存在。その人に取材が集中し、たちまち美のカリスマとなっていく。
 どちらにしてもあけすけに舞台裏を話してくれる人は、きっと"いい人"と思えるから好感度も自然に増していくのだ。でもその代わり、神秘性のようなものは消え去り、その人がどんなに美しくても、ヨーグルトや日本酒のイメージがダブってしまう。少なくともそこに奥行きは生まれない。肌表面のわかりやすい美しさで終わってしまいがちな人もいたと思う。

 ましてや今は、美容医療がどんどんポピュラーになりつつあるから、あまりにも若い女優には、美しさへの驚きより先に施術のイメージがダブり、やはりあまり心が動かない。そういう意味で改めて、舞台裏を見せない美しさが価値を持ち始めているのだ。
 そもそもが、欧米の女優は美容にまつわる質問をあまり好まないと言われる。「自分が仮に美しいとしても、それは美容のせいではないわ。もっと大切なことがあるから」。本を読んで、絵を見て、音楽を聴いて、いろんな人とたくさん話をして、そして懸命に仕事と取り組んで、さらに恋をして…そういうところから美しさは自然にあふれ出てくるものでしょ?といった主張する人がほとんど。美容医療をたっぷりやっていても、堂々とそういう主張するものなのだ。
 でもそれこそが女優の美学。やはり、美意識が極めて高いことの証。だからその人たちの美しさはちゃんと神秘的で、高級で、そして尊い。いつどこできれいになっているのかがわからない、でも申し分なく美しい、そういう人はどこまでも近寄り難さを失わないし、尊敬もされる。美しさが奥行きを持ち続けるのだ。やっぱり女は、秘すれば花。どうやって美しくなったかがわからないのに、まぎれもなく美しい人こそが美しいのである。
 ただこうも思う。秘訣を聞いて、何かひとつだけ、たとえば"気にいっている化粧品"の名をひとつだけ挙げる人がいて、そういう人は、「何もしていない」と言い張る人より、もっと美しく見えたもの。むしろその方が、"たったそれだけで、こんなに美しくなれるの?"というリアルな神秘性が押し付けがましくなく説得力を持ったから。まさしく、上手に"秘すれば花"なのである。
齋藤薫(さいとうかおる)
美容ジャーナリスト/エッセイスト
女性誌編集者を経て独立。女性誌において、 多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザー、NPO法人日本ホリスティックビューティ協会理事など幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを掲載中。著書『されど“服”で人生は変わる』(講談社)が新書で登場。『The コンプレックス 幸せもキレイも欲しい21人の女』(中公文庫)、『人を幸せにする美人のつくり方』(講談社)他多数。
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